がん治療のなかで患者を苦しめるのは、抗がん剤や放射線治療による苛烈な副作用だ。
もし、手軽なビタミンDのサプリを服用するだけでがんの再発や死亡リスクが軽減されるなら、これほどありがたいことはない。
現在、進む臨床試験と未来図についてひもとく。 その論文は、ビタミンDを一躍、医学界におけるスターダムへと押し上げた。
2007年、米ボストン大学のホリック教授が、医学関係のトップジャーナル『The New England Journal of Medicine』に発表した、ビタミンDに関する総説である。骨を丈夫にする作用がビタミンDにあることは、広く知られている。
しかしホリック教授は、ビタミンDがじつは全身の健康状態に作用し、がんや慢性疾患にも効果を表す可能性を示したのだ。
その際、鍵になったのがp53という遺伝子の存在だ。p53は、がん発生を抑制する重要な遺伝子として、がん専門家にはつとに有名だ。
p53は紫外線や放射線、喫煙などにより遺伝子が傷つくと、それを修復しようと働いたり、細胞をアポトーシス(自死)させて健康を保つ。
しかし、このp53遺伝子自体が傷つくとブレーキが壊れた状態になり、次々と遺伝子異常が蓄積されて、増殖し、やがて細胞はがん化していく。
「p53の変異はがん患者の約半数に見られます。さらには進行がんや転移がんといった死に至るがんでは、多くの患者のp53に傷がついている。
p53遺伝子を制すれば、がんを制するともいわれるほどです。 そこで今度はp53遺伝子に傷がついているp53陽性がん患者に絞って、臨床結果を改めて解析しました。するとビタミンD摂取から約2年経(た)つと、再発死亡リスクが半分にまで下がることがわかった。
さらにp53陽性がんに加えて、腫瘍マーカーの血中抗p53たんぱく抗体も検知できた患者群では、4分の1にまで低下するという結果を得たのです。
注視を浴びるビタミンDとは、そもそもどのような作用を持つのだろう。 「近年、骨を丈夫にするために腎臓が取り入れる以外に、多くの細胞もビタミンDを取り込めるとわかった。
ビタミンDは脂溶性ステロイドとして血流に乗って全身を巡り、細胞膜を通過して、細胞核のなかに入りこむことができます。それにより体の免疫力が低下していれば促進させ、過剰であれば抑制するという体にとってきわめて優秀な免疫調整剤になってくれる。
そうやって免疫やたんぱく質に働きかけることで、がんなどにも効果があると考えられます」 人間は日光に当たることで、体に必要なビタミンD量の8~9割を補ってきた。それ以外はサケやサバやイワシといった魚類、シイタケなどの食品から得ている。
確かにビタミンDは現在の臨床結果ではすべてのがん患者に効くわけではない。しかし、「革新的」と華々しく謳(うた)われる抗がん剤でも、半数以上の患者に効果がある薬は現時点ではない。
がん患者の心理につけ込む数十万~数百万円もかかる自由診療の医療ビジネスとも、ビタミンD摂取は一線を画している。なにより利点は副作用に怯(おび)える必要なく、誰もが手軽に生活へ取り入れられることだ。ただ日に当たるか、あるいは飲めばいい。
今年1月、米国がん学会(AACR)の公式学術誌に世界で初めて、血中のビタミンA濃度が中〜高値の最適な範囲にあると、ビタミンDががんにより効くとの論文を発表しました。
今後、ビタミンDとがんとの関係はより明らかになっていくでしょう。